おっぱいサバイバー

2015年28歳で乳がん告知。闘病の記録と感情をつづるブログ。

がんになって良かったこと

筆者が抗がん剤治療や手術を行ったのは2015年のため、治療に関する情報は最新と異なる可能性があります。なお、筆者の近況はTwitterで発信しています。

2015年、もうすぐ終わりですね。
わたしは12月半ばから放射線治療をはじめ、病院の営業日のあいだ毎日通院をしていましたが、昨日で “病院納め” をしてきました。まあ1月4日には “病院はじめ” があるんですけど。

今年は5月に乳がんを宣告され、ひとことでいえば、最悪な一年でした。
でも、この記事では、あえて “がんになって良かったこと” を書こうと思います。

1. 家族の大切さをわかったこと

もっとも心配をかけ、世話になったのは家族です。たぶん、わたし自身よりつらかったと思います。
実際的なところでは、母は、新幹線で4, 5時間かけて何度も世話にきてくれたし、夫は慣れない家事を手伝い、わたしの治療の判断の手助けをしてくれました。母は、自分を責めたかもしれないし、夫は、ボロボロになる妻を見るに堪えなかったかもしれません。

それでも、絶対に離れずに励ましてくれるのが家族だと、改めて実感しました。
わたしたちは、仲のよい親娘、仲のよい夫婦だと思っていたし、まわりからもそう思われていたと思います。でも、わたしは心のどこかで「社会人になったら親離れして当然」だと思っていたし、「結婚はいつか終わるかもしれない」と思っていました。

そういう漠然とした不安や自分よがりな考えを、闘病によって見つめ直しました。

2. 友だちや知人の大切さをわかったこと

闘病について公表してからは、たくさんの友だちに励まされました。中でも同い年の友だちは、年齢的にも信じられないという気持ちが強かったと思います。家族をがんで亡くしている友だちは、ほんとうに不安だったと思います。姿を見ている家族とちがい、姿が見えない不安は、恐怖が強かったと思います。

友だち、同級生、同僚、夫の友人… たくさんの方からいただいた、メッセージや手紙、プレゼント、お見舞いを、くじけそうな治療中に何度も見て励まされました。実際にお見舞いに来てくれた方もいて、とても嬉しかったです。家族よりも少し遠い場所からの応援は、「いつかまた元気になって遊ぼう・話そう!」という思いを、より強く持てるものでした。

さらに「実は…」と、同じような境遇の方、家族や友だちが同じ病気という方からも、励ましのメッセージをいただきました。わたしよりもずっと重い病気を克服された方や、同じ病気を克服された方が、それと分からず元気に過ごしている姿はとても励みになります。

Facebookをひらけば、結婚や出産の報告が流れるというけれど、そういう良いことばかりでなく、つらいことも共有できる友だちがいて、わたしの人生の最大の財産は友だちだと思いました。

(贈りものやメッセージに返事ができなかった方すみません、全部目は通しています。ありがとうございます。)

3. お金と時間の大切さをわかったこと

治療による休職をする前、つまり働いていたときは、「困ったらお金で解決しよう」とか「ストレス発散にお金を使おう」と考え方をしていました。もちろん、余裕があれば、そういう考え方が間違いだとは思いません。

そのときのわたしは「生活は何とかなっているけれど、本当にこれで良いのだろうか…」と悩んでいました。そんな矢先に休職をしたので、お金を稼ぐこと(≒働くこと)について向き合う時間ができました。

たいして欲しくない洋服やアクセサリーを買うのは、少し無理をして働いている自分の正当化や武装だったのだと思います。でも、時間ができて、きちんと欲しいものを買ったり、安くて良いものをさがしても、結局身に付けるものは大差ないんですよね。

これから復職したら、考え方は変わるかもしれないけれど。ずっと働いていては得られない価値観を持てたのは、とても良かったと思います。

4. ゆっくり家事をできたこと

休職する前も、それなりに家事をこなしていました。ただ、あまり余裕はないし、新しいことに取り組む余裕はありませんでした。

家事ができるようになってからは、新しい料理に取り組んでいます。
例えば、レバニラ、ゴーヤーチャンプルーなどの下処理が必要なもの、タイカレーなどの今まで作ってこなかったもの、身体のことを考えた肉を使わない献立などを作っています。最近はパン作りもしています。

また、平日に掃除や洗濯を済ませておいて、休日はゆっくり休めるようになりました。

5. 本・漫画をたくさん読めたこと

とにかく時間がたくさんあるので読書がはかどりました。家にいる時間も長ければ、病院の待ち時間が長いことも多いので。

読んだ本は、きちんと数えていないけど、たぶん50冊くらい。大きく分けて7タイプでした。時間がないと読まないジャンルもあるので、この機会に挑戦できて良かったです。

  1. 好きな作家の小説・漫画
  2. 猫に関する本
  3. 話題のビジネス書・ベストセラー書
  4. 乳がん・医療・メンタルに関する本
  5. 料理・食べものに関する本
  6. コミックエッセイ・絵本
  7. 東日本大震災に関する本

本については、また別の記事でまとめようと思います。

ちなみに、もっとも繰り返し読んだのはご近所物語。闘病を始めてから、5回は読んだんじゃないかな。

6. いのちや人生について考えられたこと

大病を患った人は、きっと誰でも通る道だと思います。人はいつか死ぬということは、知識の上ではわかっていたけれど、なぜかいつまでも続くと思ってました。まだ20代だし。

スティーブ・ジョブズの有名なことば。

もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか?
If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?

スティーブ・ジョブズの名言・言葉(英語&日本語) | 名言+Quotes

これについて、何度も考えました。わたしの出した答えは「今日や明日が人生最後だとは思わない。残り50年生きる人生設計を考える」というものです。

今日や明日死ぬのならば、つらい治療はしないほうが良いという判断もありえます。でも、まだまだ20代。これから何十年も生きるために、治療をして生きていくのです。本当に自分のやりたいことは、焦らずゆっくり見つけていけば良い、と思っています。

7. 今まで会えなかったひとたちに会えたこと

ここ数年は、会社の同僚と家族以外に、率先して会う機会が少なかったと思います。
でも 2. で友だちの大切さを考えたこと、時間の余裕ができたこと、そして社会復帰の意味もこめて、人に会う機会を増やしました。闘病中に初めて会った人も何名かいます。

同僚や家族ばかりと話していると、似た価値観に偏り、自分のキャラクターもかたまってきます。それで困ることはないけれど、なにか悩みができたとき、行き詰まったとき、全くちがった考え方の友だちと話すのは、例え具体的な解決にならなかったとしても、ヒントをもらえることが多いものです。

1月も余裕があるので、たくさんの人に会っていきたいです(この記事を見て「ごはん行ってやっても良いぞ!」と思った方 TwitterGoogleフォーム からご連絡ください)。

8. 圧倒的な “言い訳” を手に入れたこと

“きちんとしている” ことが格好良いと思っていました。自分で選んだことなら、仕事であれ家庭であれ “つらくても、言い訳せずに頑張って当然” だと思っていました。器用貧乏なりのプライドだったんだと思います。

でも、嫌なこと・つらいことはあって当然で、それを宣言しても良いし愚痴を言ったって良い。無理をしなくて良い。まわりのひとが頑張っていて、スピーディで、才能もあるように見えるかもしれないけれど、わたしはわたしの歩幅で生きれば良い。

そういう当然な考え方をするために「わたしは乳がんになったし無理しなくて良いや」と、自分自身への “言い訳” を手に入れたのは良かったと思います。

9. マイノリティーに目を向けられたこと

乳がんは、女性にとってポピュラーながんのひとつです。しかし、20代で見れば1万に1人程度の罹患数。病院に行っても、同世代の患者さんは少ない印象を受けます。

いままでは「20代後半になったら、これくらいできないと」とか「みんながこうしてる」「平均はこれくらい」ということを、少なからず気にしていました。「みんなと同じは嫌だ」と思っていたはずなのに、まわりが気になって仕方ありませんでした。

でも、世界にはたくさんのマイノリティーのひとがいます。隠れて見えなかっただけで、戦っているひとが実はたくさんいるんだと気付きました。
世界はマジョリティへ向けてつくられているけれど、その陰で戦うマイノリティーがいることに改めて気付きました。

10. 置かれた環境で幸せになれると確信できたこと

変化を恐れることがありました。それなりに幸せな現状を維持しようと思うことがありました。

闘病は、過酷でつらいこともあったけど、一方、新しいことに気づいたし楽しめる部分もありました。この記事にまとめている通り。
そこで気づいたのは、どんな環境でも幸せをつくるのは自分自身であること。そして、過酷な闘病を終えた(闘病自体はまだまだ続きますが)わたしは、どんな場所でも何とかなる、と小さな自信を手に入れました。

がんになって良かったことリストって?

「(がんになって)悪かったこと・良かったことリスト」は、聖路加国際病院の保坂隆先生が提唱しています。それぞれ書き出してみると、「悪かったこと」より「良かったこと」が多くなっていくと言われています。
わたしは、10月に京都で行なわれたピンクリボンフェスティバルで初めて聞き、なるほど!と思って試しました。乳がん患者の方は、ぜひ試してみてください。

最後に、そのときの配布資料にある保坂先生のことばで締めくくります。

「乳がんになったことには何らかの意味がある」と仮定して、病気になった意味を考えるのもいい。特に、スピリチュアルに考えられるということは、乳がんになったひとの特権のようなものだ。