乳がん患者として、インターネットのがん情報と向き合う上で気をつけていること
ネットの医療・健康系検索結果についての記事が話題になっています。「がんに関する情報は命に関わりセンシティブである」という問題提起には、まさに治療中の身として強く共感します。
さて、記事の中で、わたしがもっとも気になったのは「正しい検索結果とは何か?」という部分です。
この高品質さとして、医療・健康系の検索ならば大学や政府の機関など公的なサイトを優遇するべきという声をよく聞きます。しかしそれは正しくありません。
例えば観光で訪れた小樽で耳が痛くなったときに行われる[小樽 耳鼻科]という検索を考えてください。大学や政府機関ばかりが出るべきでしょうか?
WELQ退場から半年。事件は医療・健康系検索結果をどう変えたか? by @tsuj
がん患者は、日々さまざまな情報と向き合わなくてはいけません。がんの疑いがあると言われてからは、検査の説明や、病状について。実際に治療に入るとなれば、治療方針や進め方、リスクなど。ネットでの情報もちろん、テレビを始めとした報道、芸能人の体験談、がんをモチーフにした映画や本などのエンターテイメント作品。病状を家族や友人に共有してからは、治療に関するアドバイスをもらうこともあります。
がんに関する情報は、それが正しかったとしても、当事者や家族としては非常につらいことが多いです。生存率を見ては落ち込むひとだっているでしょうし、薬の副作用に嘆くこともある。同じ病気のひとに感情移入しすぎては涙することもあります。
わたしは、ネットのがん情報の問題点は、その不正確さだけではないと思っています。明らかに患者の命を脅かすような情報を、SEO戦略で検索結果上位に表示するのは反対ですし、逆に公的な機関の統計情報などは、もっと患者に見つかりやすくなってほしいとは思います。
しかし、ネットの情報は、以下2つの問題も潜むと思っています。
ひとつは、たとえ確かな情報であっても、前後の文脈のない断片的な情報になりやすいこと。例えば「乳がんの生存率は90%を超える」といわれることがありますが、これだけだといつのデータなのか?どのステージなのか?といったことは分かりません。でもTwitterなどでは、こういった情報が拡散されやすいです。
もうひとつは、実際の患者・家族の体験談や質問が、感情的で特にネガティブになりがちなこと。ネットは、不安なことを吐露しやすく、質問しやすいです。わたしは大丈夫なのかな?といったつぶやきや、このしこりはがんでしょうか?抗がん剤すれば治るのでしょうか?といった質問を気軽に匿名で投げかけられ、本人にとっては感情のはけ口となります。一方、それを見たほかの人にとっては、不安を煽るものになることもあるでしょう。
ではどうすれば良いのか。
わたしは、ネットを始め、がんに関するさまざまな情報に向き合う際、以下のことに気をつけるようにしています。
病気について一番詳しいのは主治医であると信じる
これが大前提ですが、病気についてもっとも詳しいのは医者(主治医)です。ほんの数日ネットで集めた知識で、数年、数十年職業としている方を超えられるわけがありません。もちろん医者も人間なので間違うこともあるでしょうし、相性が合わないこともあると思います。少しでも懸念があればセカンドオピニオンやサードオピニオンを使い、信頼できる医師を探すべきです。最終的には、主治医を信じるのが一番大事だと考えています。
自分の治療方針は自分で決める
詳しいのは医師ですが、決めるのは自分です。手術をするのか、抗がん剤を使うのか?何かを決断するのは精神的負荷がかかりますが、自分の体、自分の人生です。命に関わる決断を、自分以外に任せる方が不安だとわたしは思っています。でも、どうしても決めるのが難しいときは、家族の意見も大事です。自分の人生の責任は自分でしか取れないけれど、いざというときに助けてくれる家族の意見も聞くと良いかもしれません。
ネットの情報は、調べたり専門家に聞く材料とする
病気になると、どうしてもネットで調べてしまいます。ネットの情報は即時性があり、断片的です。気になったものは書き留めて、後日、書籍など別の方法で調べたり、専門家に聞く材料だと思うようにすると良いと思います。書き留めて寝かせることで、冷静に見れますし(スマホでセンセーショナルな情報を見るとどうしても鵜呑みにしてしまいますよね)、別の方法や専門家の意見と合わせることでより正確なものとなるはずです。
ネットは横のつながりに使う
わたしは20代で乳がんになりましたが、リアルの生活で同じ境遇の人を探すのはとても難しい(20代で乳がんになる確率は0.01%程度)です。でも、ネットを使うと仲間を見つけやすいし、つながりやすい。精神的に落ち着いて、仲間を見つけたくなったときには、ブログやSNSなどで仲間を探してみると良いと思います。わたしはインスタのハッシュタグ #乳がん で友人が何人かできました。
体験談は、エモーショナルなものが多いという前提知識を持つ
ひとは不安なときにネットに書き込みやすいと分かっていると、ちょっと冷静になれます。書籍などと違い編集者が入っていない生の情報は、必要以上に不安になることもあります。そういうことを念頭に置き、自分の精神が落ち着いているときにネットの情報を探すようにしています。
たった1%の奇跡でも自分がそこに入らない可能性はないし、逆に99%の常識でもそこに入るとは限らない
わたしは、乳がんの疑いがあると言われた直後、ネットで検索して「20代の乳がんは少ない」という情報を見ていました。そのときに思ったのは、どんなに確率が低くても0%ではないということ。だからこそ、きちんと治療を受けられました。
生存率が高いからといって、必ず大丈夫ということはないし、逆に低いからといって奇跡が起きないとは限らない。統計というのは、あくまで多くの人の結果であり、誰かひとりの人生を決めるものではないと考えています。
最後に、わたしはインターネットに関する仕事をしていて、インターネットが大好きです。だからこそ、現状の医療系の検索結果には疑問に思うこともありますし、ネットに存在する情報そのものの価値を高められないかと考えています。
いま、わたしが患者としてできることは、こうやって情報を発信して問題提起したり考えを述べること、感情的すぎない記録を残すことだと思っています。
ひとりでも多くのがん患者が、いちにちでも楽しく長く生きられることを祈っています。